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坂の上の雲ミュージアム|建築家 安藤忠雄

愛媛の名建築 坂の上の雲ミュージアム

坂の上の雲ミュージアム

坂の上の雲ミュージアム

坂の上の雲ミュージアム(2006年竣工)は司馬遼太郎記念館を手がけた建築家安藤忠雄が司馬遼太郎の小説「坂の上の雲」を題材として設計した文学ミュージアム。
建築家安藤忠雄が手がけた坂の上の雲ミュージアムの魅力を探ってみました。

小説「坂の上の雲」

「坂の上の雲」は日本騎兵を育成し、中国大陸でロシアのコサック騎兵と死闘をくりひろげた秋山好古。東郷平八郎の参謀として作戦を立案し、日本海海戦でバルチック艦隊を破った秋山真之。病床で筆をとり続け、近代俳諧の基礎を築いた正岡子規の生涯を描いた司馬遼太郎の歴史小説。
合計1296回(4年半)に及ぶ新聞連載となった小説は舞台となった松山や近代国家へと歩み始めた激動の時代をそれぞれが「坂の上の雲」という夢や目標を持ってひたむきに生きた3人を中心に描かれている。

坂の上の雲ミュージアムの立地

坂の上の雲ミュージアムは松山県庁や裁判所が並ぶ松山市中心部に位置するも、松山城などの観光地からも近く、「坂の上の雲」フィールドミュージアムの中核施設としてふさわしい立地となっている。市内中心部にもかかわらず、近隣には大正時代の建物で国重要文化財「萬翠荘」や愛松亭跡(夏目漱石の下宿先)など歴史的地域であるとともに松山城のある城山の自然豊かな落ち着いた地域となっている。

松山市内概略図

松山市内概略図

萬翠荘

萬翠荘

愛松亭跡

愛松亭跡

司馬遼太郎記念館

司馬遼太郎が他界した時、婦人の弟である上村洋行氏は 記念館をつくる話は断っていた。それは、司馬遼太郎は自己顕示欲の少ない人であり、原稿や写真などを展示するというイメージがなかったからである。ただし、司馬遼太郎の蔵書約6万点が将来散逸することを危惧していた。そのための建物はつくりたいと考え建築家安藤忠雄氏に相談。会うといきなり安藤氏は「本やね」と一言。その言葉を聞いた瞬間に上村氏はこの人に設計を頼むのが一番いいと思ったそうである。司馬遼太郎記念館(2001年竣工)は自宅敷地に増設。ゆるやかな曲線を描くシンプルなガラスとコンクリート打ちっ放しの建物で3層吹抜けの大書架に約2万冊の蔵書が収められた。
司馬遼太郎記念館

司馬遼太郎記念館(銭高組HP)

坂の上の雲ミュージアムの設計

坂の上の雲ミュージアムの設計は司馬遼太郎記念館を手がけたことより、安藤忠雄氏が行った。司馬遼太郎記念館と同じくガラスとコンクリートの打ちっ放しであるが、形状は丸ではなく、城山公園が間近に迫る山裾であったため、直線で三角形が基調となっている。
2つの三角形を重ね合わせた建物は通りから見る城山の緑を遮らない構造となっており、建物西側のカーテンウォールには城山の緑が映し出されている。このカーテンウォールは5度拡がるように斜めになっており、周辺の木々を美しく映し出せるようになっており、建物は存在感を控えめに自然に溶け込ませるようになっている。

坂の上の雲ミュージアム
1階はピロティになっていて水盤がある。水盤は軒天のアルミカットパネルで反射され木々の緑とガラスのコントラストが美しく映し出されるようになっている。3階の壁面より2階をセットバックさせ、また1階をピロティとすることで、萬翠荘へのアプローチに面する沿道への圧迫感を緩和させるとともにカーテンウォールが浮かびあがり、建物がまるで「坂の上の雲」のように見える。そして建物横のエントランスまで上っていく長いアプローチも「坂の上の雲」を連想させてくれる。
歴史的建造物である萬翠荘との関係性を重視した三角形の形と向き、その形を利用した魅力的なアプローチなど単純な三角形という造形であらゆる効果を生み出している建築となっている。
坂の上の雲ミュージアム正面
坂の上の雲ミュージアムアプローチ

坂の上の雲ミュージアム館内

エントランスは最上階のトップライトから二階から四階につながる支柱のない大階段の合間を縫って落ちる自然光が僅かに照らしている。スロープはコンクリート打ち放しの正三角形のホール外縁を回るように設けられている。
直島ホール集会所
坂の上の雲ミュージアムスロープ

館内の壁は垂直ではなく、外側に倒れるように僅かに傾いています。壁の外側の人は外部の景色に、壁の内側の人は展示空間の広がりと展示物に意識が向くようになっています。

三角形を描くスロープでつながれた展示室を回遊式庭園を楽しむようにあがっていきます。
直島ホール
スパン18mのRC打ち放しの階段は吹抜けの二階から四階に設けられた空中階段となっている。手すりの穴にPC鋼材があり、コンクリートに圧縮力を与えることで大スパンを飛ばすことができている。
直島ホールの井戸
坂の上の雲ミュージアムスロープ
坂の上の雲ミュージアムからみた萬翠荘

屋上テラスの外側は萬翠荘と森林を広々と見渡せる景色となっている。三角形の建物の配置は萬翠荘の見え方で決めている。

小説「坂の上の雲」をイメージするようにつくられた打ち放しコンクリートのミュージアムは建築家安藤忠雄ならではの作品であり、展示作品だけでなく建物も楽しめるミュージアムとなっています。


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