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梼原町立図書館の魅力を探る|建築家 隈研吾

高知の名建築

梼原町立図書館(雲の上の図書館)

梼原町立図書館(雲の上の図書館)は、建築家隈研吾氏による6棟目(梼原町複合福祉施設と同時竣工)の建物であり、梼原町の「人と自然が共生し輝く須原構想」の中核施設としてつくられた。隈研吾氏と楠原町の活動を紐解きながら楠原町立図書館の魅了をみていきます。

 

高知県楠原町

梼原町は、高知市内から西へ約80km(車で約1時間半)に位置し、町の面積は91%を森林が占め、標高1455mにもなる雄大な四国カルストのある自然豊かな山間の小さな町(2020年の人口約3,400人)です。
 

梼原町の地図

隈研吾と梼原町

ゆすはら座

バブル崩壊で仕事がなかった隈研吾氏は、高知の建築家小谷匡宏氏から声をかけられ、1992年に梼原町を訪れた。
梼原町で訪れたのは、「ゆすはら座」であった。
ゆすはら座は、1948年に町組によりつくられた「梼原公民館」として庶民の娯楽の場として、町組管理のもとに映画館、芝居小屋、保育所などに利用されてきた。
 

ゆすはら座

ゆすはら座

 

この建物は、大正時代の和洋折衷様式を取り入れた建造物で、モダンな外形に花道のついた舞台、2階の桟敷席、天井の木目が美しく、四国内にある内子座、金丸座と並ぶ貴重な芝居小屋であったが、維持管理費が大きな負担となり、町組は1988年に取り壊しを決議していました。

この劇場を見た隈研吾氏は、木に囲まれた空間に圧倒され「ああ、こういう空間を私は欲しかったんだ」と思ったそうである。
都市にある劇場は椅子を並べたコンクリートの箱でしかなかったが、ゆすはら座は木の温もり、柔らかさ、舞台と客席の関係性など隈研吾氏にとっては未知の概念のものばかりであった。
 
隈研吾氏にとって、バブル時の東京の建築は「形の建築」であり、とても満足できるものではなかった。1950年代の古い木造の建物のゆすはら座から未来の劇場の形がここにあると思った。ゆすはら座から得たインスピレーションやアイデアが、その後の隈研吾氏の作品に大きく影響を与えた。
 
そして、隈研吾氏は、ゆすはら座の保存運動に関わり、移築作業を地元の大工や建築関係の人たちと進めるなかで、木や木材の持つ素材としての可能性に目覚め、もう一回真剣に建築をやり直そうと思ったのであった。

隈研吾による梼原の建築群

梼原町地域交流施設

ゆすはら座の保存活動により梼原町との関係が始まった隈研吾氏が最初に手掛けた施設が梼原町地域交流施設(1994年竣工)であった。いわゆる「雲の上のホテル」で親しまれた木を使ったホテル。
ホテルは、当初農協運営のステーキハウスとして計画が進んでいたが、中越準一町長の英断により、隈研吾氏の設計による地域交流施設(ホテル)へ変更。建築の条件として木造建築とすることであったが、構造上の理由から鉄骨と木を挟んだハイブリッド構造となった。
 

隈研吾設計による梼原町地域交流施設(雲の上のホテル)

建替えのため現存せず

 
屋根の形は飛行機の翼をイメージしたもので、斬新なデザインでありながらも、景観を損なわない建物になっていた。

梼原町総合庁舎

2006年竣工。町役場だけでなく、銀行・JAなど生活基盤企業と、広場の役割を兼ね備えた施設。舞台にもなるエントランスがあり、太陽光パネル・クールチューブなど環境へ最大限配慮した設計となっています。
隈研吾氏は、ここに人が集う居心地の良い空間を目指した。天気の良い日には大きな扉が開き外と中が連続した空間が現れるようになっています。
 

隈研吾の設計による梼原町総合庁舎
 
総合庁舎は、木造の柱をボルトで縫い合わせて巨大な柱を作り、梁も集成材で大きな断面のものを井桁に組んで大空間を作っています。内部はデザイン的にもその荷重が肌で感じられ、壮観なものとなっています。外観は幾何学的に複雑なデザインとなっており唯一無二なものとなっており、自然豊かな環境にあわせています。
木材のデザイン性や構造材としての木材の可能性を引き出した建物となっています。
隈研吾の設計による梼原町総合庁舎
隈研吾の設計による梼原町総合庁舎

マルシェ・ユスハラ

2010年に竣工した特産物販売と、ホテルが融合した施設。茅のファサードが特徴的な景観を生み出している。また、茅葺きは、通気性・断熱性に優れているため、自然の力によって快適な室内環境を創っています。
 

マルシェ・ユスハラ
 

木橋ミュージアム

2010年に竣工した橋のようなミュージアム。雲の上のホテルと温泉をつなぐ橋と隈研吾氏のミュージアムとしてつくられた。
 
「地域文化の活性化」「アーバンデザイン」「架構技術」「素材と伝統表現」といった様々な主題をブリッジすることで、公共建築の新たなあり方を試みた作品。
 

木橋ミュージアム

 
日本建築の軒を支える「斗栱(ときょう)」という伝統的な木材表現をモチーフとして、刎木(はねぎ)を何本も重ねながら、桁を乗せていく「刎橋(はねばし)」は、江戸時代の忘れられた架橋形式で、刎木を少しずつずらして跳ね出していく構造形式で出来ています。
 
木・鉄の支柱からスギ集成材の刎木を何重も掛けた構造は、周囲の大自然と調和しながら「梼原の象徴」としての迫力ある存在感が表現されています。 

建築家隈研吾氏の設計による木橋ミュージアム
建築家隈研吾氏の設計による木橋ミュージアム

梼原町立図書館

梼原町立図書館は、「梼原町人と自然が共生し輝く梼原構想」に基づく、自信あふれる梼原人を育てる仕組みづくりの中で計画され、2018年に竣工しました。
 

梼原構想のレジュメ

梼原構想の資料

梼原小学校跡地に建てられた「ゆすはら雲の上の図書館」と複合福祉施設「YURURIゆすはら」は、芝生を挟んで向かい合う体育館と子供園との多世代の交流できる梼原町のコミュニティのコアとして誕生しました。

建築家隈研吾氏の設計による雲の上の図書館
体育館とこども園と建築家隈研吾氏の設計による雲の上の図書館

隈研吾の思い

建築家隈研吾による梼原町立図書館(雲の上の図書館)

ゆすはら雲の上の図書館開設時のコメント

 
本と木組みに包まれた
森のような図書館を作りました。
棚田のような段々の空間で
大地と建築をつなぎとめ、
小さな空間を散りばめることで、
リビングのように心地よい読書空間を
目指しました。
心地よい場所です。
梼原の木のぬくもりを
肌で感じに来てみてください。
 
            隈研吾
  (ゆすはら雲の上の図書館資料より)

図書館外観

 
建築家隈研吾によるゆすはら雲の上の図書館外観
 
手前が図書館で、奥が梼原町複合福祉施設となっています。図書館正面からは山小屋風の建物にも見えますが、建物全体で見ると山脈のように見え、背後の山並みの景観との調和を図っています。
 

図書館室内

図書館室天井に吊るされた幹と枝のような無数の木組みは、木漏れ日が降り注ぐ森のような空間となっています。また、中央部分には棚田のような階段や半地下をつくりフロアに起伏を持たせています。
 
階段を小さなステージとして音楽会や朗読会がおこなれています。また、喫茶スペースやボルダリングスペースを確保しており、それぞれが自分なりの楽しみ方を創造できる施設となっています。

 
建築家隈研吾による雲の上の図書館の室内
 
靴を脱いで入館するため、木の温もりを感じることができます。
キッズスペースは床暖房となっており、子供達は床に座り込んだり、寝転びながら本を楽しむことができ、まるで家に居るような感覚で楽しめます。
 
2階のライブラリの本棚には海洋堂のフィギュアが置かれています。また、屋根にあわせて傾いた天井や絨毯が敷かれており、屋根裏の趣味の部屋に居るような感覚になり、リラックスして本を読めます。
 
図書館内で話をすることはOKであるため、閲覧コーナーを設けています。また、読書に集中できるようイヤマフの貸出もおこなっています。
建築家隈研吾氏の設計による雲の上の図書館

キッズスペース

建築家隈研吾氏の設計による雲の上の図書館の2階の部屋

ライブラリ

建築家隈研吾氏の設計による雲の上の図書館

イヤマフで読書ができます

建築家隈研吾氏の設計による雲の上の図書館の2階の部屋

ボルダリングスペース

天気のいい日は、図書館の1階部分は開放され、どこからでも入館できます。同一敷地内にあるこども園の子供達の放課後は、芝生広場で遊んだり、図書館で本を読んだりと思い思いに楽しめます。また、隣接するYURURIゆすはらを利用している高齢者も気軽に図書館に立ち寄れるなど、世代を越えた地域コミュニティの場となっています。
 

雲の上の図書館
 

隈研吾氏の建築家人生を変えた梼原町と梼原町の未来をひらく拠点をつくり続けた隈研吾氏双方の思いが見事に一致し、木に親しみながら、町の人々が楽しめる既成概念を越えた自由な図書館をつくりあげることができたのではないのでしょうか。



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