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植田正治写真美術館の魅力を探る|建築家 高松伸

島根県の名建築

植田正治美術館

バブル時代のポストモダンの一人であった建築家高松伸は、植田正治写真美術館をはじめ地元山陰で作品を手がけるようになってから作風が変化していきます。高松伸の変化を探りながら植田正治写真美術館の魅力をみていきます。

写真家 植田正治

植田正治

写真家の巨匠植田正治氏(1913~2000年)は鳥取県境港市を拠点に70年近く活動。前衛的な演出写真は「植田調」(フランスではUeda-cho)として知られ、写真家たちに影響を与えるとともに、多くのアーティストから「撮影してほしい写真家」と称された。
 
その写真家植田正治生誕の地に、植田正治氏から寄贈された12,000点を半永久的に保存・展示する美術館の建設が企画され、植田正治氏の意向に沿って町は高松伸氏を設計者として指名した。

建築家 高松伸

建築家高松伸によるみなとさかい交流館

みなとさかい交流館

1948年 島根県仁摩町生まれ
1980年 京都大学博士課程修了し、高松伸建築設計事務所を設立。
1981年 織陣Ⅰ竣工
1987年 キリンプラザ大阪竣工
1989年 キリンプラザ大阪にて日本建築学会作品賞受賞
1995年 植田正治写真美術館竣工
1997年 京都大学大学院工学研究科教授
2003年 国立劇場おきなわ竣工

デビュー作「織陣Ⅰ」
織陣Ⅰは京都の老舗帯問屋の「ひな屋」からの依頼。設計に際しての要請は「建築を設計せよ。使用方法は建築の完成後決定する」のみであった。
高松伸氏は「織陣Ⅰ」で画一的なモダニズム建築を打破する表現方法を見つけ出すポストモダニズム建築の旗手として華々しくデビューすることとなった。
この織陣Ⅰは日本建築家協会新人賞を受賞。

織陣Ⅰ

織陣Ⅰ(現存せず)

織陣Ⅲ

織陣Ⅲ(現存せず)

織陣は1~3期に分かれて建築された。織陣Ⅰは赤い御影石、織陣Ⅲは黒の御影石が使われた。織陣Ⅲでは機械の持つクールで鋭利で躍動感に満ちたイメージを建築デザインに持ち込んだ。

建築家高松伸によるKPOキリンプラザ大阪

KPOキリンプラザ大阪(現存せず)

「KPOキリンプラザ大阪」では高さ約20mに及ぶ行灯状の光塔に内蔵された約5000本の蛍光管が灯された“灯の塔(ひのとう)”が夜間に照明される特徴的な建物であり日本建築学会賞を受賞。また、映画ブラックレインの舞台の一つにもなった。
これらオリジナリティあふれる作品を高松伸氏はバブル時代に呼応されるようにつくり続けていったが、残念ながらこれらの建物の多くはすでに現存していない。

高松伸氏の建築の原点

子供のころからの遊び場であった出雲大社の境内。その出雲大社本殿は人がその中で暮らしたり使ったりしない使い道の無い建築になっているにもかかわらず、巨大な建築を大変な犠牲を払って建築されている。建築した理由は何だったのか。そこに建築の根源的な意味が存在しているのではないかと意識し続け、建築は自分のあこがれのためにつくっていいものであるとも考えオリジナリティあふれる作品をつくり続けた。

高松伸氏の転換点

1990年代の地元である山陰からの仕事を通じ作品が変化していった。

そこでは、ある種の社会性に触れることができた。それが風景であったり、その土地に住んでいる人々がつくり上げた風土であった。それらにより、内へと向かう建築のつくり方や建築への思考は少しづつゆるくなり始めた。

植田正治写真美術館

鳥取県岸本町(現伯耆町)に1995年9月開館。岸本町は人口約7400人の自治体であり、1983年に中国自動車道が全線開通したことで多くの観光客を誘致するために、地域の芸術・文化のシンボルとして植田正治美術館を設立した。
建築家高松伸氏は大山のきれいな裾野に美術館をつくることについて、「今までの思考では何をつくっても大山の風景を潰してしまう。今までの思考では大山と対峙していた。それを受け入れるような建築をできないか。風景と建築を切り結ぶには曲線が必要と考え、大きなカーブを使った」と語っている。
 

植田正治美術館

伯耆町HPより

 
東側に位置する大山(写真左側)を軸としたゆるやかなカーブ状の壁で美術館を囲っている。
植田正治美術館
植田正治美術館
眼前にそびえる大山そのものを建築意匠として取り入れるなど周囲の環境との調和を図っている。
 
植田正治美術館
 
のどかな田園風景にぽつんと現れる外観は植田正治氏のスタイルにみられる「無機質」をそのまま表現している。
 
植田正治美術館

伯耆町HPより

美術館を分断することで群的なシルエットを形成するとともに、展示室間におかれた水面が美術館を巡る者に逆さに写し撮られた美峰の光景を提供している。
 
植田正治美術館
 
植田正治美術館
 
植田正治氏はこの美術館の4つの棟を自らの作品「少女四態」との共通性を感じ喜んだとのことである。

スリット状の隙間から美しい大山と水面に映える逆さ大山。写真家植田正治氏の作品、建築家高松伸氏の建物、大山の雄大な自然それぞれが自己主張しながら、絶妙なバランスを崩さない緊張感を楽しめます。


高松伸氏は山陰での仕事を通じて花開いていき、孤絶、孤独ではなく孤高に近づいていった。
2003年に竣工した沖縄伝統芸能の保存と育成のための国立劇場おきなわ。
沖縄の伝統的な庇「雨端(あまはじ)」(庇が深く日陰をつくる) と呼ばれる軒下空間と、「チニブ」(格子状の竹垣)と呼ばれる外壁をモチーフにした作品はBCS賞、公共建築賞を受賞している。

国立劇場おきなわ

国立劇場おきなわ


植田正治写真美術館
所在地:鳥取県西伯郡伯耆町須村353-3


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