市営基町高層アパートは、ル・コルビュジエの孫弟子でもある大髙正人がユニテ・ダビタシオンの要素を思い描きながら、試みた超大作であり、一つの都市というべきスケールの高層アパート群であった。それは、前川國男事務所での晴海高層アパートの主担当者として、また独立後は坂出人工土地をてがけてきたからこそ成し遂げることができたプロジェクトであった。
ユニテ・ダビタシオン
市営基町高層アパート
市営基町高層アパートの経緯
基町アパートの位置する区域一帯は、戦後の応急的な公的住宅が1,815戸建設されていた一方で、戦災者や引揚者等の土地を持たない人々が河川敷に密集し、多くの民間住宅が建てられていた。1968年までに公的住宅の建替えが実施され、市営住宅(基町アパート中層棟630戸)と県営住宅(H29年解体)が建設された。
しかしながら、公営住宅の建替のみでは、不良住宅解消は不可能であったため、住宅地区改良事業と公営住宅事業を合わせた再開発を進めることになった。
市営基町高層アパート配置図
建物のプラン
- 土地の高度利用を図り、公共・公益施設を含めて総合的に整備すること
- 地区内の居住者とともに広く市民の住宅需要に応えること
大きな制約
基町アパートでは住宅地区改良事業として施行しており、国庫補助事業であるが、当然補助金では足りるものではなかった。その一方で建築費は高騰を続けていた。さらに高層アパートであっても、住民の反発を抑えるため、従前の木造住宅と同等の賃料水準にせざるを得なかった。その結果、コストは極限まで切り詰められた。また、補助金を最大限得るためには、建築デザインにも制約が加わった。
大髙正人の発想から構想されたもの
大髙正人氏は2つの発想から構想した。
- 従来のマッチ箱的住棟概念を捨て、都市的スケールを持った街をつくり、中央のオープンスペースや周辺の屋外空間をひとつの都市的空間として秩序づけ、豊かに演出しょうとする発想。
- 単なる集合体といった建築物ではなく、コミュニティー機能を内蔵した立体化した住宅街区をつくるという発想で「S・I方式」「屋上庭園」「空中街路」といった設計手法はこの発想から具体化された。
大髙正人氏の発想から様々な魅力的な取り組みがおこなわれたが、一方でコスト条件を克服するため、大胆に決断した純鉄骨、純ラーメン大架構形方式の採用や2次部材のプレキャスト製品の多用などコスト削減も徹底しておこなわれた。
建物の特徴
ル・コルビュジエのユニテ・ダビタシオンの影響
- 生活のすべてが賄える集合住宅
- ピロティ、屋上庭園など「近代建築の五原則」に基づいた構成
- 商店フロア(エリア)
- スキップフロア
これらの要素に加えて、市営基町高層アパートでは3棟から成る高層アパート群を屏風のように「く」の字に折れ曲がった形とし、各住戸の採光条件を平等にしたうえで、窓からの視界を確保している。また、S・I方式(躯体を壊さずに住戸を改造できるスケルトン・インフィル)方式により新陳代謝をおこなえるようにされているなど大髙正人独自の工法を取り入れて設計されている。
屋上庭園
ピロティ
ショッピングセンターの中央は空に向かって開かれており、開放的な空間となっている(坂出人工土地に比べるとかなり明るくなっている)。階段を登ると、基町アパートの特徴の一つ「人工地盤」へと繋がっている。
ショッピングセンター
人工地盤
アパートは、隣接する広島城の南側に向かって20階建てから8階建てへと低くなっている。これは基町高層アパートが広島城との調和のとれた都市環境を形成するとともに、入居者らが屋上から瀬戸内の素晴らしい景観を満喫できるように設計されている。