神勝寺洸庭は、2016年にアーティスト名和晃平氏が率いるクリエイティブ・プラットフォーム「Sandwich」が禅を現代アートで解釈したインスタレーションとしてつくられました。そして神勝寺は「禅と庭のミュージアム」として禅を体験できる施設としてリニューアルされました。
神勝寺
京都御苑内の旧賀陽宮邸にあった門を移築
神勝寺は、常石造船社長であった神原秀夫氏が海運、造船業を営むものとして、海難事故に遭われた方の供養のために、1966年禅師を開山に招請して建立された臨済宗建仁寺派の特例地寺院です。
7万坪の広い境内にいくつものお堂や茶室、社務所が点在。修行僧が食していた神勝寺うどんなど、五感のすべてを使って「鑑賞」する場となっており、臨済禅を通じて今まさに生きている人々が「今を生きる」ために己を見つめ共に研鑽するための場となっています。
神勝寺松堂
総門を抜けると目に入ってくる建物は松堂です。拝観者の受付や展示スペースとなっている平屋建ての特徴的な建物が出迎えてくれます。
手がけたのは建築史家であり建築家でもある東京大学名誉教授の藤森照信氏。自然を生かした建築を多く手掛けており、松堂では、瀬戸内地方を象徴する赤松をテーマとしてつくられています。
松堂の屋根には赤松が植え込まれ、その屋根は粗削りの赤松の梁と柱で支えられています。
一見藁葺き屋根にも見える高さ9.5mのトンガリ屋根は、ボランティアの人々によってつくられた曲げ銅板を使用。廂が地面につきそうな特徴的な形の建物となっています。
銅板の不揃いさや銅のさびが見事に周りの自然環境に馴染んでいます。回廊の列柱は、赤松を曲面カンナ掛けし、手曲げ銅板でカバーしています。
柱に使われた木は藤森照信氏自らが職人と一緒に森に入り、伐採を指示したY字型に枝分かれした赤松が回廊の柱として使われています。
自然素材を上手く取り入れる藤森照信氏のアイデアが満載された松堂は、神勝寺に上手く溶け込んでいる。
洸庭
名和晃平
SANDWICHの建築チームは、名和晃平氏の思想や作品、アートディレクションと呼応するかたちで、設計や内装に取り組んでいます。
Biota (Fauna/Flora)犬島F邸(建築妹島和世)
洸庭のモチーフ
神勝寺の由来である「舟」をモチーフとした形状とし、木、石、水をデザインと素材選定の基本要素に据えて構成しています。
浮遊する舟のような建築の中に「波」と「光」によって「海原」を表現。
建物の中では名和晃平氏によるインスタレーションが広がり、アートと建築が融合した作品となっています。
担当は名和晃平、李仁孝、古代雄一
45mの舟をイメージした建物は圧巻です。
ワンマテリアル、ワンテクスチャーをめざしてつくられた建物は、素材感が際立っています。屋根には柿葺き(こけらぶき)の工法で10cm角のサワラ板材が約59万枚用いられています。
杮葺きは、建仁寺の屋根などに見られる伝統的工法です。その杮葺き屋根と舟底を上下に貼り合わせたような形の建物の下にはゴツゴツとした大きな石が敷き詰められています。
敷き詰められた石が海となり、鉄柱で支えられた建物が浮遊し、まさに海原に浮いた舟となっていました。
建物とインスタレーションは、禅の体験を現代アートの文脈で解釈したすばらしい作品となってます。
無明院庭園
無名の庭
阿弥陀三尊の庭
羅漢の庭
神勝寺 禅と庭のミュージアムは、禅の教えをより多くの人に開かれたものとして体験できるように構想されました。豊かな自然の中に点在する伽藍や茶室、庭園、インスタレーションなどの施設で体験でくることのすべてが作品となっています。
含空院
江戸時代中期に臨済宗を中興させた白隠禅師の禅画・墨筆のコレクションから昭和を代表する中根金作の庭や自然派建築の藤森照信氏の松堂そして名和晃平氏の禅を現代アートで表現した洸庭など、禅についてゆっくりと体験できるすばらしい場となっています。