デザイン知事と言われた金子正則香川県知事が行った香川の戦後復興は丹下健三設計による香川県庁舎(1958年竣工)から始まった。ル・コルビュジエが提唱した近代建築の5原則と日本の伝統美を融合した香川県庁舎は丹下健三の初期の傑作の一つにもなった。金子知事は香川県庁舎以降も積極的に第一線の建築家を登用し和洋の混在併用する活気ある街づくりを成し遂げた。
また、文化や産業の育成にも取り組み、イサム・ノグチや流政之の芸術活動拠点の誘致や県庁の造作家具を手がけた桜製作所がジョージナカジマの家具を任されるなど地方にありながらも時代の最先端の地となった。その中心地である高松の魅力を探ってみました。
イサム・ノグチ庭園美術館
香川県高松市牟礼町牟礼3519
モダニズム建築の集積地・高松中心部
建築家丹下健三による香川県庁舎(1958年)以降、第一線の建築家による建築が、次々と高松市街に姿を現した。和洋の混在併存を成し遂げ、芸術文化発信の香川県文化会館(1965年、大江宏)、雁行するアプローチとスキップフロアによる流動的な空間構成の旧香川県立図書館(1963年、芦原義信)。また、日建設計(薬袋公明)による百十四銀行本店(1966年)は、高層+低層の構成や外壁の銅板張りなどにより、周辺環境の積極的な関わりが試みられた。
県庁舎の地上部は「前庭→ピロティ→1階ロビー」となっており、内部と外部がシームレスに繋がり、県民に対して開かれた空間を実現している。
猪熊弦一郎による壁画「和敬静寂」と丹下研究室がデザインした家具
金子知事が希望した「民主主義にふさわしい県庁舎」を具体化させた丹下健三氏の香川県庁舎は、伝統とモダニズム建築を融合し新しい空間を実現させた完成度の高い建築となった。
建物だけではなく、ピロティ、南庭などの空間を始め、ロビーの猪熊弦一郎氏による壁画や丹下研究室による家具など見どころたくさんです。
喫茶城の眼
建築設計山本忠司氏(香川県職員)、ファサード・室内デザイン田中充秋氏、石彫レリーフ岡田石材石彫研究室。
昭和37(1962)年に開店した喫茶店城の眼。通りをはさんで日本銀行高松支店があり(現在は高松市美術館)、証券会社や民間銀行が集中するこの一角は、いわゆる「支店経済」の中心的な地域であった。「城の眼」の常連として金子知事、元福井日銀総裁(当時は高松支店長)などの政財界人をはじめ流政之氏など芸術家や山本忠司氏らの建築家達が集まる場として賑わってきた。ここは、高松のモダニズム建築の中心的な場所でもあった。
1964年に開催されたニューヨーク世界博覧会の日本館(1・2号館)は前川國男氏が建築設計をおこなったが、城壁と堀を連想させるような外観となっていた。その彫刻石組の設計を流政之氏が担当。彫刻の施された石壁は大きな衝撃を与え、「ストーン・クレイジー」と呼ばれ話題となった。
その石壁の試作として造られ設置されたのが「城の眼」の店の奥の石壁(内壁)であった。店は前川事務所や流政之氏らの打ち合わせの場としても利用された。
香川県庁舎竣工から3年後の1961(昭和36)年に建設が始まった旧香川県立図書館。ニューヨーク帰りの芦原義信氏による初期の作品。ニューヨークでマルセル・ブロイラーから学んだ建築手法は当館にも採用されており、スキップフロアや雁行するアプローチなどが楽しめます。
旧の図書室。スキップフロアーのため上半分だけが窓となっているが、明るく開放感もありながら、落ち着きのある図書室となっていた。
建築家丹下健三氏による代々木競技場と同時期に同じ体育館として設計された旧香川県立体育館。ともにル・コルビュジエの影響を受けた作品ではあるが、旧香川県立体育館は力強いブルータリズムによる表現となっている。
船の体育館として親しまれていたが、残念ながら解体に向けた準備が進められている。
香川県立武道館
香川県庁舎で丹下健三氏と協働した香川県土木部建築課は、1960年代を中心に打ち放しコンクリートの柱梁を備えた公共建築を多作していた。
香川県立武道館は香川県立体育館の同時期に香川県建築課によって設計された。校倉の柱と梁の表現に旧倉敷市役所の影響を、目地を入れたハツリ壁とスチールサッシの形状に香川県庁舎の影響を見ることができるが、大屋根をもつ大空間の武道館として上手く仕上がっている。
香川県営住宅一宮団地
スターハウス
五色台山の家
設計は丹下研究室出身の浅田孝氏。浅田孝氏が策定した高松市近郊の五色台開発計画の施設の一つ五色台少年自然センターの本館。屋根は勾配に変化をもたせた寄棟の大屋根。独特の赤紫に発色するコールテン鋼で葺かれている。
五色台少年自然センターは金子知事の依頼で野外活動を子供たちに推進するための開発保全の計画からはじまったもので、主に小中学生の野外活動の場として現在も利用されている。
親友のイサム・ノグチ氏から贈呈されたオクテトラ
メタボリズムのメンバー栗津潔氏がデザインした紋章
黒川紀章による休暇村五色台(旧国民宿舎)
讃岐民芸館(栗林公園)
商工奨励館の蔵と蔵の間に増築された古民芸館
讃岐民芸館は、特別名勝栗林公園内にある商工奨励館(1899年)の蔵や栗林公園観光事務所、レストハウスが改修され古民芸館、新民芸館、家具館と瓦館の4棟で構成された施設群。設計は山本忠司氏によりおこなわれ、それぞれ建設された時代や構造が異なる施設を瓦や石、木などの素材を上手く使いまとめられた。
新民芸館の正面文字は初代館長となった和田邦坊氏によるもの。また、古民芸館には、後に足立美術館を作庭した中根金作による中庭がある。
新民芸館
瓦館
中根金作氏作庭の古民芸館中庭
山本忠司氏により整備されたアプローチ
山本忠司氏による壁画と瓦による椅子
設計は日建設計工務の薬袋公明氏。広島県庁舎を手掛けた薬袋氏は都市景観形成を意識した新しい銀行本店の姿を提案した。緑青仕上げのブロンドのファザードや公道を跨いで水平に伸びる低層部と高層部が高松を代表する景観となっている。落ち着きのあるロビー壁面と床面は流政之氏によるもの。
設計は香川県職員山本忠司氏。香川県庁舎新設プロジェクトから金子知事と二人三脚で取組んできた。丹下健三氏をはじめ様々な建築家から学んだ建築のあり方の集大成となったのが瀬戸内海歴史民俗資料館。地元の歴史や風土にあった建築を見事に表現している。
高松中心部の名建築とうどん屋MAP
ことでん高松築港駅ではJULIAN OPIEの「街を行き交う様々な人の彫刻」が出迎えてくれています。そのまま徒歩や高松駅にあるレンタサイクルで南下して市内中心部に行っていただいてもいいですし、レトロなことでん電車に乗って旧香川県立体育館や栗林公園などを巡るのもありです。
栗林公園には讃岐民芸館だけでなく、商工奨励館2階には、ジョージナカジマが手がけた家具が展示されていたり、掬月亭には村野藤吾氏がインスピレーションを得た床があります。
帰りはサンポートの夕景と流政之の彫刻「MATAKITENO」を楽しんでください。
ゆっくりと一日高松市内のモダニズム建築や「うどん」などを楽しんでみてはいかがですか。
なお、香川県庁舎ロビーは土日は入館できません。また、喫茶城の眼は日曜休みとなっており、うどん店も日曜休みが多いのでご注意ください。残念ながら「まいまい亭」は閉業となっています。