美術館の巨匠谷口吉生による挑戦
豊田市美術館は、かって挙母城(ころもじょう)のあった童子山の高台の一角に1995年に開館した美術館。歴史感のある森と池水でつながれた、かつミステリアスで静謐な空間の中に水平・垂直なフォルムの極上な美術館があった。
豊田市美術館の特徴
美術館の立地
童子山の高台には、かつて挙母城の城郭(本丸)が置かれていました。この挙母城は、三河国・尾張国・美濃国・信濃国・伊賀国・伊勢国・近江国の7つの国が望めることから七州城と名づけられました。櫓台の石垣が残っており、1978年(昭和53年)には隅櫓が復元された。そして、本丸跡に豊田市美術館が整備されました。木々に覆われた丘の上に立つ美術館であり、アプローチは自然豊かな空間となっており、「日常から非日常へ」と徐々に気持ちがきりかわっていく。
挙母城隅櫓
西側駐車場からの屈曲したアプローチ
外観・庭園
建築家谷口吉生氏は設計する建築を敷地という条件から発想しています。豊田市美術館では城跡の丘の高低差を活かし、一番下の地階レベルを職員の出入り口と搬入口、一階を来館者の正面玄関へのアプローチ、二階を池と庭園としている。そして、昔からの古い豊田の町に面する西側の正面玄関、新しい豊田の町の景観を見下ろすような位置にある東側玄関を東西軸でテラスで結び垂直関係にある南北方向に長く、南から企画展示室、常設展示室、高橋節郎館が独立性をもちながら、統一性のある配置で並べています。
東側玄関(駅から徒歩はこちらから)
駐車場からの屈曲したアプローチを進むと、その全貌が開けてきます。そこは丘の上の高低差を活かして配され、乳白色のガラスと緑のスレートでできた直方体が浮かび上がります。
ランドスケープはピーター・ウォーカーによる芝生と砂利による市松模様が配されています。
素材は光の透過性または反射、全体のプロポーションの三つから考えて決めている。
壁面の緑のスレートは米国バーモンド州産の粘板岩。無彩色では面白くなく、緑色であれば色や形が主張しすぎず展示作品と喧嘩をすることがないため。この粘板岩は劣化せず、使っているうちに緑色が濃くなり、深みがでることで乳白色のガラスや樹木と混じり合ってさらに絶妙なバランスになっていく。
なお、MoMAでもこのスレートの使用を提案していたが、値段が高価であるため使用することができなかった。
エントランス
水平に伸びるファサードの巨大な構えとは対照的に正方形の壁に目隠しされた控えめなエントランスが現れます。それは千利休が取り入れた茶室のにじり口のように小さな空間となっている。外観の非日常感から天井の低いエントランスに入ることで一度人間の身体感覚に戻ることができる。
光のシークエンス
光の変化の順序
- 天井の低い落ち着いたエントランス
- 光のあふれる吹き抜け階段
- 多種多様な明るさを持つ展示室
- 光のあふれる吹き抜けに戻ってくる
- 外部の明るい彫刻テラスにでる
アプローチ空間かあら内部の空間や光の変化まで、細部にこだわった構成となっている。
展示室
豊田市美術館では実施設計の段階から谷口吉生氏にヴィジョンを伝え、どのような展示室、導線にすべきかを課題の中心にすえて議論していった。
ホワイトキューブ(装飾のない白壁)の展示室であるが、谷口吉生氏の提案で部屋によっては天窓から自然光の入る広い吹抜け空間や壁面の半分がガラスとなった柔らかく均質な光が入る空間などそれぞれに特徴をもった展示室で構成されている。
展示物を様々な角度から見えるように階段が設置された展示室。通路からも室内全体を見渡せることができ、平面だけではなく立体的な空間となっている。それぞれの展示室は個性的に見えるが、どのような作品も許容してくれる。これらの展示室は作家たちに挑戦させているのかもしれない。
豊田市内の街並み
内側と外側の境界が曖昧になっています
谷口吉生氏の美術館に共通する特徴の一つにルートの中で所々外の景色を見せている。それは、美術館が建てられた敷地の意義(場所)を大切にしており、風景を様々な角度から切り取っている。
建物に並行している池底の帯模様(ピーター・ウォーカー)
谷口吉生氏は「池があると人と建物との距離を保つことができ、水が間にあることで、その先に行けないがその向こうを見通すことができる。季節や天候、時間の変化を水は映してくれる。水は全体的な平面でランドスケープに水平線を引くことができる。豊田市美術館ではどうやって空を映すのかなどを考え、水深を意識し底の浅い池にしている。」と池の効果について語っています。